- 子どもを運動系の習い事に通わせているが、先生やコーチの話を聞かず、叱られてばかりいる。
- 子どもが最近、運動系の習い事に行くのを嫌がりだした。
- いま通わせている運動系の習い事を続けるべきか、やめるべきか悩んでいる。
近年、子どもの体力や運動能力の低下が問題視される中、自分の子どもだけは「運動能力を伸ばしてあげたい!」と考えて、お子さんを幼い頃からスポーツクラブや運動教室に通わせたり、運動指導の時間が多い保育園や幼稚園に入園させたりする親御さんが増えてきています。
しかし、お子さんを運動系の習い事に通わせているものの、お子さんが楽しめていない・いやがるなどの理由で「このまま続けさせた方が良いのか?それとも辞めさせた方が良いのか?」と悩まれる親御さんは多いと思います。
このようなお悩みに対して、結論から先に言うと、
運動系の習い事は辞めてしまっても大丈夫です(あっさり)。
なぜなら、子どもの体力や運動能力は遊びの中でこそ伸びるからです。
ですので、子どもの運動能力を伸ばしたいのなら、習い事ではなく自由遊びをたくさんさせてあげてください。
ずいぶんあっさりとした結論ではありますが、なぜこのような結論になるのか、これから詳しくお話ししていきたいと思います。
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子どもが運動系の習い事を嫌がるのはどうして?ーうちの息子の場合
そもそも、なぜ子どもが運動系の習い事を嫌がるのでしょうか?
その理由をうちの息子の場合をご紹介しながら探ってみましょう。
うちの3歳の息子は 週1回60分の体操教室に通っています。
通い始めてから3ヶ月ほど経ちましたが、最近、子どもが「先生に怒られてばかりで楽しくない。もう辞めたい」と言いだしました。
実際にレッスンを見学してみたところ、うちの息子は先生がお話ししている最中にもぞもぞ動いたり 遊んでばかり…。
そりゃ怒られるわ…と恥ずかしく思いつつも、見学しているうちにレッスンの内容やコーチの指導の仕方が うちの息子に合っていないように思えてきました。
例えば…
- 退屈な時間が多い
先生のお話しを聞く時間や順番の待ち時間など、身体を動かしていない時間が結構長い。
→だから、子ども達が手持ぶさたで ふざけたり 遊んだりしてしまう。 - 叱られっぱなし
叱られてばかりで、叱られた後に息子が態度を改善しても褒めてくれない。
→だから、いつまでも子ども達の受講態度が改善しない。 - 子どもの自主性・主体性を認めない
コーチに言われた動きしかしてはならず、子どもが自分で好きな動きをすると叱られる。
→だから、子ども達は「やりたい」「挑戦したい」というよりも、「やらされている」「言われた通りできることが大事」という受け身的な考え方になる。
子どもが楽しそうに過ごしている場面も多いものの、これでは子どもが嫌がるのも無理はないなと思いました。
このまま息子が叱られ続けて「ぼくは怒られてばっかりで悪い子なんだ…」と自己評価が低くなってしまう前に、教室を辞めさせた方が良いのかも…と不安になりました。
子どもの運動系の習い事をやめさせて良い理由
そうは言っても、運動系の習い事をあっさり辞めてしまって本当に良いのか?
運動指導を受けないと、子どもの運動能力は伸びないのでは???
と心配になりますよね。
その不安を解消すべく、これから運動系の習い事を辞めてもいい理由をご紹介していきます。
幼児期の子どもに運動を習わせることは本当に効果があるのか?
そもそも、幼児の頃から 運動系の習い事をさせること=運動指導を受けさせること で、どれだけの効果があるのでしょうか?
これについて、幼稚園での保育時間中におこなわれる運動指導の効果を調べた研究報告があります。
この報告では、
-
運動指導をよく行っている園
-
運動指導をあまり行わない園
-
運動指導をまったく行わない園
これら3つのグループに分けられた幼稚園にそれぞれ通っている子ども達の体力・運動能力を測定し、グループ間で比較しました。
一体、どのような結果になったと思いますか?
(ちょっと考えてみてください。)
では、結果をお伝えします。
子ども達の体力・運動能力が高かったのは…
1位:運動指導をまったく行わない園
2位:運動指導をあまり行わない園
3位:運動指導をよく行っている園
いかがでしたか?予想は当たりましたか?
私は とても予想外の結果で驚きました。
ちなみに、この結果は2002 年、2008 年、2010年のそれぞれの調査結果ともに同じ結果でした。
つまり、運動指導を多く行っている園よりも、行っていない園の方が子どもの体力・運動能力は高くなるということです。
なぜ運動指導すると子どもの体力・運動能力は伸び悩むのか?
運動指導が多い幼稚園の方が子どもの体力・運動能力が低くなるという予想外の結果について、なぜそうなるのか、考えられる原因をご紹介します。
運動指導が多い幼稚園では、行われている指導の内容が体操・水泳・サッカーなどの特定の種目に決められていることが多いです。
ですので、子ども達はそれぞれの種目に合わせた限られた活動しか行うことができません。
偏った運動経験だけでは 子どもの体力や運動神経を総合的に伸ばすことができません。
運動指導が多い幼稚園では、指導内容を指導者(先生やコーチ)がすべて決めてしまっており、子ども達に選択肢や決定権はありません。
また、指示も一人一人に合わせたものではなく、全体に対して画一的な指導を行っている場合が多いです。
整列から始まり、準備運動、説明を聞く、順番待ちをする…など、子ども達は指導者からの一方的な指示に従うことしか許されません。
よって、子ども達は受け身の態度でしか運動に取り組めず、子どもの体力や運動神経は伸びることができません。
どんな運動指導なら子どもの体力や運動能力を伸ばすことができるのか?
では、子どもの体力や運動能力を伸ばすためには、どのような運動をさせれば良いのでしょうか?
結論から言うと、子どもらしい遊びやごっこ遊びを取り入れた運動をさせるのが良いとされています。
子どもの外遊びは体力・運動能力を伸ばすのに最適
1分あたりの脈拍が160 拍を超える運動は運動強度〈強〉と分類されますが、じつは、子どもの遊びは運動強度が高いものが多く、子どもの体力や運動神経を伸ばすのには最適なのです。
例えば、4歳児クラスの子ども達に鬼ごっこを10 分間行わせて心拍数を測定した研究報告では男の子で平均 171 拍/分、女の子で平均 183 拍/分という結果が得られました。
最も心拍数が高かった子は200 拍/分を越えており、最も低い子でも鬼ごっこをしている10 分間は ほとんど常に150 拍/分を越えていました。
また、15分間の手つなぎ鬼、高鬼、玉入れ、フープ転がし、砂遊び、すべり台などの活動においても平均心拍数は150 拍/分以上か、それに近い値になったことが報告されています。
子どもにとっては砂遊びやすべり台遊びでも十分な運動になるなんて意外ですね。
まぁ、子どもが遊んだらすぐに汗びっしょりになるのを見れば納得ですが…(笑)
子どもの外遊びと運動指導はなにが違う?
それでは、鬼ごっこのような「遊び」は運動指導で走らされるのと一体なにが違うのでしょうか?
「遊び」とは、子どもが自ら「やりたい」と望んで行う行為であり、それを行うことで「自己決定」と「自己有能感」を得られるもの とされています。
つまり、子どもが自分で「やりたい」と思うことをやって、「できた」または「自分はできる」と感じられるものこそが「遊び」なのです。
運動指導では子どもに選択肢や決定権がなく、ただ指導者の指示に従って「やらされている」だけです。
要するに、子どもの気持ちの問題という訳ですね。
そして、この「気持ちの問題」が子どもにとっては重要な違いなのです。
幼児期の子どもは、自己決定による運動遊びが成立することによって初めて 体力・運動能力を発揮することができます。
そのため、幼児に対する運動プログラムが 小・中学生向けと同様の「上達すること」を目指した「運動技術の一斉指導」や「体力づくり」であるほど、子どもの運動能力は低くなり、運動パターンも少なくなるとされています。
また、世界的にもスポーツ参加年齢は早まっていますが、子どもの心身の発達を総合的に考えると、小学校になるまではスポーツに参加させない方が良いと指摘する研究報告もあります。
もっとはっきり言ってしまうと、ある種のスポーツにおいてルールで決められた専門技術を中心とする 特定の動作の上達を目指した技術指導は子どもの育ちを阻害するとまで指摘されています。
一方で、一流選手の多くは 幼児期・児童期には専門化されたスポーツとしてではなく、遊びとして多くの運動を経験していることが明らかにされています。
良かれと思って、子どもに早くからスポーツをやらせている親にとっては衝撃の研究結果ですね。
どんな運動指導なら子どもの体力や運動能力を伸ばすことができるのか?
以上のことから、運動系の習い事はやめて、子どもには自由遊びをたっぷりさせてあげれば 子どもの体力と運動能力は伸ばせると言えます。
しかし、お子さんが通っている保育園や幼稚園の園庭が狭い場合や、自由遊びの時間が少ない場合、また、降園後に公園などで遊ばせたくても、少子化のせいで一緒に遊ぶお友達がいない場合や、そもそも公園に連れていく時間が無いという場合もありますよね。
そのような場合は、習い事の教室またはスポーツクラブで次のような内発的動機づけを意識した運動指導を行ってもらえれば、子どもの体力や運動能力を伸ばすことができます。
- 運動遊びとして成立するように、安全の範囲内で子どもの自由な行動を認め、訓練的な反復にならないように配慮する。
- 子どもの「やりたい」という気持ちを高めるために、「自己有能感」「自律性」「友達との関係性」について指導援助を行う。
- 「自己有能感」については、子どもの活動中や終了時に褒め言葉を多くかける。
- 「自律性」については、運動課題を複数用意し、子どもが自分で選択できるようにする。または、子どもに運動課題を考えさせる。
さらに、各課題において方法や順序など、子どもにできるだけ選択肢を与え、自己決定できるようにする。 - 「友達との関係性」については、2 名以上の子ども同士で協力的に実施できる課題を用意する。
このような方針に則って指導してもらえれば、自由遊びよりも運動能力をより伸ばすことができると報告している論文があります。
ただし、25m走体、立ち幅跳び、テニスボール投げ、両足連続跳び越し、体支持持続時間、捕球の各テスト種目において、体支持持続時間のみ「自由遊びを行ったグループ」よりも「内発的動機づけを意識した運動指導を行ったグループ」の方が優れた結果となっており、残りの種目については差は見られませんでした。
ですので、私は↓のような結論に至りました。
それなら高いお金を出して子どもが嫌がる体操教室に通わせるより、無料で子どもが楽しめる自由遊びの方が全然いいじゃん。
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まとめ―子どもの体力や運動能力を伸ばしたいなら、習い事はやめて代わりに自由遊びをさせよう
いかがでしたでしょうか?
せっかく運動系の習い事をさせているのに、むしろ子どもの運動能力の発達にとって悪影響だという研究報告は非常に衝撃的だったと思います。
もし今現在、お子さんを「体力や運動能力を伸ばす」ために運動系の習い事に通わせており、なおかつ、お子さんが習い事に行くのを嫌がっているのであれば、すぐにでも辞めてしまった方が良いでしょう。
ただし、運動系の習い事を「辞めるだけ」では 当然ながら体力や運動能力が伸びる訳ではありませんので、誤解のないように…。
ちゃんと代わりの時間で自由遊びをたっぷりとさせてあげてくださいね。
あるいは、きちんと子どもの内発的動機づけを意識した運動指導を行ってる運動教室またはスポーツクラブに所属させてあげてください(←少ないと思いますが…)。
そうすることで、お子さんの体力や運動能力は伸びていくはずです。
私はとりあえず今回の記事のもととなった論文(下記の参考文献)を息子の体操教室の先生に見せてみようかな…?と考えております。
そして、適切な対応をしていただけないようでしたら(おそらく期待できないですが)、体操教室は辞めて、代わりに幼稚園の自由遊びに参加させようと思います。
今回の記事が お子さんの運動系の習い事を「続けさせた方が良いのか?辞めさせた方が良いのか?」と悩まれている方にとって、結論を出す一助となれば嬉しいです。
よろしければ、「家庭でできる 子どもの運動神経を伸ばす方法」についての記事もぜひ合わせてお読みください↓
参考文献
『幼児期の運動指導が体力・運動能力向上につながる運動プログラムに関する研究―内発的動機づけを重視した指導に注目して― 」
※↑論文のPDFデータのダウンロードURLです。