- 子どもの好き嫌いがひどくて、悩んでいる。
- 子どもに、嫌いなものでも食べるようになって欲しい。
- 子どもに、もっとたくさん食べるようになって欲しい。
お子さんの好き嫌い(偏食)がひどくて悩まれている親御さんは多いのではないでしょうか?
うちの息子も、離乳食のときから「食」については悩まされ続けています。
うちの息子は好き嫌いが多いし、食べる量も少ないんですよね(汗)。
そこで今回は、味覚の科学から分かった子どもの好き嫌いが起こるメカニズムと、科学的に効果が認められている好き嫌いを治す方法をご紹介していきます。
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なぜ子どもは好き嫌いをするのか?好き嫌いが起こるメカニズム
子どもの好き嫌いをなおす方法をご紹介する前に、そもそも、どうして子どもは好き嫌いをするのでしょうか?
その理由を科学的に検証してみましょう。
食わず嫌いのメカニズムとは?「見慣れない食べ物は避ける」のが人間の本能
まず、子どもが【食わず嫌い】をする理由についてご説明します。
人間を含めた動物は本能的に「食べたことがない食べ物について、安全かどうか」を疑うようにできています。
そうしないと、野生の世界では下手すると死んでしまいますからね。
この本能は当然、私たち大人にも残っています。
例えば、目の前にいくつかのパンが置いてあって、その内の1つだけはカラシがたっぷり入っているパンがあったとします。
どのパンにカラシが入っているのか分からない場合、普通の人なら…
- それぞれのパンの匂いや色や形から、どれが大丈夫そうかを判断して、安全そうだと考えたパンを一口だけ食べる。
- 大丈夫なら、もう一口食べる。
- まだ大丈夫なら、もう少し食べる。
という行動をします。
この行動は、野生動物のエサの食べ方に似ているそうです。
つまり、私たち大人でも、カラシが入っているかもしれないパンは(たとえ実際にはカラシは入っていないとしても)、安全かどうか分からない【未知の】食べ物なので「危険そうだから食べたくない!」と本能的に抵抗してしまうのです。
さらに、他の例として、納豆や梅干しなどは、欧米人の方に最も嫌われやすい食べ物らしいですが、これも見慣れない食べ物に対する本能的な拒否反応らしく、「ネオフォビア(新奇性恐怖)」と呼ばれるそうです。
野ネズミだと酷いときはこの本能によって餓死してしまうこともあるんだとか…。
※ちなみに、この「ネオフォビア(新奇性恐怖)」とは反対に、新しい食べ物を好む傾向を「ネオフィリア(新奇性嗜好)」と言うそうです。
経験や情報によって食べ物の安全性が分かっている大人と違い、子どもはまだまだ何も分かりません。
野生の状態に近い存在です。
本能にしたがって、目新しい食べ物を嫌がるのは自然なことなのです。
嫌いになるメカニズムとは?食べたとき、またはその後で心身の不調が起こると嫌いになる
次に、子どもが何らかの食べ物を口にして、それを嫌いになる場合の理由を説明します。
ある食べ物を口にした時にまずい(苦い、酸っぱい、辛い、塩辛い、痛いなど)と感じた場合、または(食べたときは美味しいと感じても)食べた後で体調が悪くなった場合、その食べ物を嫌うようになります。
これも人間を含む多くの動物に備わっている本能的な仕組みで「味覚嫌悪学習」と呼ぶそうです。
特に注目していただきたいのは食べた後で体調が悪くなった場合です。
これは、食べたことによる食中毒や下痢などの体調不良だけでなく、ぐるぐる回ったせいで目が回った、寝不足でだるくなった、風邪で熱が出たなどの、食べたこととは関係なく起こった不快感でも、その食べ物を嫌うようになります。
つまり、子どもにある食べ物を嫌いにさせないためには、まず第一に「口に入れたときにまずいと感じさせないこと」、そして、第二には「食べた後で不快な感じにさせないこと」が重要です。
ですので、子どもの食事が終わった後ですぐに寝転ばせたり、走らせたり、ジャンプさせたり、ぐるぐる回転させたりすると、子どもの気分が悪くなって、その食べ物を嫌いになってしまう可能性が高くなるのでやめさせましょう!
子どもが食べ終わった後は、安静にさせて、できるだけ不快感を起こさせないようにするのが肝心です。
また、子どもが風邪を引いている、あるいは寝不足ぎみなどで体調が万全でないときは、新しい食べ物や苦手な食べ物を食べさせるのはやめておきましょう。
食べた後に、風邪や寝不足のせいで子どもの調子が悪くなってしまうと、その食べ物を(たとえ食べたときは美味しいと感じられても)嫌いになってしまう可能性が高くなります。
また、この本能的な「味覚嫌悪学習」は匂いに対しても起こります。
例えば、レモン風味の飲み物を飲んだ後で体調が悪くなった場合、体調が回復した後でも、レモンの香りがするもの(食べ物以外でも)を嫌がるようになります。
できるだけ子どもに「嫌いな食べ物」をつくらせないためには、食べるとき&食べた後に子どもに不快感を起こさせないように気を付けることが重要です。
好物ができるメカニズムとは?食べたとき、またはその後で心身の調子が良くなると好きになる
一方で、子どもが何らかの食べ物を口にして、それを好きになる場合の理由をご紹介しましょう。
先ほど、食べたとき又は食べた後で不快な気分になると、その食べ物を嫌いになる「味覚嫌悪学習」をいう本能的な仕組みをご紹介しましたが、その逆の仕組みもあります。
ある食べ物を口にした時においしい(甘い、うま味がある、こくがあるなど)と感じた場合、または(食べたときは不味いと感じても)食べた後で良い気分になった(嬉しい、楽しい、元気になったなど)場合、その食べ物を好きになります。
これを「味覚嗜好(しこう)学習」と呼びます。
この食べた後で良い気分になったという場合について例をご紹介します。
例えば(極端な例ですが)、ネズミにモルヒネ(麻薬)が入った水を与える実験で、モルヒネ自体は苦いのでネズミは嫌うのですが、飲んだ後の快感から、それ以後、普通の水よりもモルヒネ入りの水を好むようになるそうです。
つまり、たとえ苦い味でもその後に良い気分になることがあれば、その食べ物を好きになるということです。
また、他の例をあげますと、入院している患者さんは、入院中(回復している間)に食べた物を、退院後も好むという傾向があります。
これは、その食べ物を食べることによって体調が良くなったと脳が本能的に判断し、積極的にその食べ物を食べるように、その食べ物を好きなものとして記憶するためです。
このことから、子どもにある食べ物を「好きにさせる」ためには、食べるとき&食べた後に子どもに「うれしい、楽しい、元気になった」などの良い気分を感じさせることが重要です。
これは、先ほどのネズミを使った実験から分かるように、すでに嫌いになった食べ物に対しても有効です。
これについては、子どもの好き嫌いをなおす方法として、後ほど詳しくご説明します。
好き嫌いはじつは生まれる前から始まっている
ここまでは、わたしたちに本能的に備わっている仕組み(味覚嫌悪学習と味覚嗜好(しこう)学習)によって、食べた後の体調や気持ちの変化でその食べ物の「好き・嫌い」が決まることをご紹介しました。
ここからは、ある食べ物を口に入れたときに、子どもが「美味しいと感じるか、まずいと感じるか」の違いについてご説明したいと思います。
じつは、その食べ物を「おいしい」と感じやすいか「まずい」と感じやすいかは、生まれる前から決まっているんです。
子どもの好き嫌いは、胎児の頃のお母さんの食事によって影響を受ける
ちょっと専門的な話になりますが、わたしたちが味を感じるのは、口の中にある「味蕾(みらい)」という小さな器官の働きによって起こります。
この味蕾は、妊娠約3ヵ月目のお腹の中の赤ちゃん(胎児)の口の中で既につくられています。
胎児はへその緒を通じて、お母さんの胎盤から臍帯血(さいたいけつ)として、ほとんど全ての栄養を受け取っています。
そして、口からも羊水を飲むことで、ナトリウムやカリウムなどのほかに、糖分(グルコース)やアミノ酸などの栄養を取り込んでいます。
このとき、羊水中のナトリウムやカリウムなどは、お母さんの食事の量や何を食べたかには影響されませんが、糖分(グルコース)やアミノ酸の量はお母さんの食事によって変化します。
この羊水中の糖分(グルコース)やアミノ酸の量の変化を、胎児は味の変化として感じています。
例えば、妊娠中のお母さんがにんにくカプセルを飲むと、お腹の中の羊水はかなりニンニク臭くなることが研究によって報告されています。
そして、ニンニクをよく食べるお母さんの赤ちゃんは、乳首にニンニクの匂いをつけると、おっぱいを飲む量が増えることも報告されています。
つまり、赤ちゃんはお腹の中にいたときからの「味の好み」を持って生まれてくるのです。
ところで、生まれて数時間しか経っていない赤ちゃんに甘い水、すっぱい水、苦い水を与えると、大人と同じような表情をするそうです。
甘い味ではニコニコ顔、すっぱい味では唇を突き出したすっぱそうな顔、苦い味では口を左右に開けて顔をゆがませるのだとか。
また、野菜スープを与えた場合では、スープ中のうま味成分のグルタミン酸の量が多くなるにつれて、赤ちゃんは甘味のときと同じく、ニコニコ顔をするそうです。
ただし、塩味については顔の表情の変化は起こさないそうです。
これは、生後100日~120日ほど経たないと人間の塩味に対する味覚の認識ができあがらないためです。
さらに、生まれつき脳に障がいがある無脳症や水頭症の新生児でも、健全な赤ちゃんと同じように、それぞれの味に対して顔の表情を変化させるそうです。
このことから、味覚に対する表情の変化は、脳(大脳など)で行っているのではなく、脳幹(大脳と脊髄がつながっている部分。反射などを司っている。)で反射的に行っていると考えられています。
つまり、苦い味やすっぱい味を子どもが嫌がるのは、反射的な(原始的な)反応なので、脳が十分に発達していない幼児期では自然なことなのです。
生まれた時から遺伝的に苦味を感じない子どももいる
一方で、苦味に対して鈍感、またはまったく苦味を感じない子どももいます。
先ほど、わたしたちは口の中にある「味蕾(みらい)」という小さな器官によって味を感じていると書きました。
そして、その味蕾(みらい)の中で働く味の成分を受け取るタンパク質に変異が起こっていて、苦味を感じにくい、または全く苦味を感じない人たちがいることが、研究によって明らかにされています。
普通の人では「TAS2R」と呼ばれる苦味の成分を受け取るタンパク質を26種類もっています。
しかし、このうち4種類(TAS2R2、TAS2R7、TAS2R45、TAS2R46)について、遺伝的に持っていない人たち(遺伝子が機能していない人たち)がいることが分かっています。
また、26種類のTAS2Rを全て持っている人の中でも、その中の1つである「TAS2R38」に変異が起こると、苦味を感じにくい、または苦味をまったく感じなくなります。
つまり、苦い野菜でも好き嫌いせずに食べている幼児は、遺伝的に苦味を感じにくい、または苦味をまったく感じることができない子どもかも知れません。
(↑もちろん、苦くても頑張って食べるという、忍耐力の強い子どももいるでしょうが。)
保育園や幼稚園の給食などで、Aちゃんは残さず全部食べたけどBくんはピーマンを残したという場合、Aちゃんは「がまんができる(よくしつけられた)エライ子」で、 Bくんが「がまんができない(しつけがちゃんとされていない)ダメな子」というわけではなく、生まれ持った遺伝的な差である可能性があるのです。
子どもが嫌いなものを好きにさせるにはどうしたら良い?
それではいよいよ、子どもが嫌いな食べ物を食べられるようにするための対策をご紹介していきます。
食わず嫌いをなおす方法
子どもが好きな味付けにする
食わず嫌いの原因は食べたことがない食べ物について、安全かどうかを疑う本能だと先ほど紹介しましたね。
そして、大人でも外国の親しみのない食べ物などには抵抗を示すことも紹介しました。
そのようなとき、大人ならば食べ慣れない外国の食べ物でも、慣れ親しんだ醤油や味噌などで味付けをすることにより抵抗を和らげ、食べることができるようになる、と経験的にご存知の方も多いはずです。
ですから、お子さんが食わず嫌いをして困っているという方は、ぜひその食材をお子さんが好きな味で味付けしてみてください。
たとえば、ケチャップや焼き肉のたれをかける、カレーやみそ汁に入れる、などです。
うちの息子の場合は生野菜や焼き野菜はなかなか食べませんが、おみそ汁に入れると食べることが多いです。
甘いものが好きなお子さんなら、野菜をつかったお菓子などを作ってみるのも手だと思います。
子どもが見慣れるまで何度でも食卓にならべる
また、親しみのない食べ物についても見慣れるまで何度もあきらめずに食卓に出すことが効果的です。
最初は子どもにとって見慣れない怪しい食べ物でも、何度も見ていれば(さらにそれを親が美味しそうに食べているのを何度も見れば)、抵抗感が和らぎ、自分から「食べてみようかな」とチャレンジしてくるようになります。
わが家の場合、初めて見る食べ物で「これやだ~」と言うものについては、まず「ダメ、一口だけで良いから、食べてごらんなさい」と言うのではなく、「やった~!じゃあ、お母さんにちょうだい。これ美味しいから、お母さん好きなんだ~(喜)」といって、さっさと子どものお皿から自分のお皿へぜんぶ移してしまいます。
すると、移した食べ物がもう無くなりかける頃に「一口ちょうだい」と息子が自ら言ってくることがあります。(←いつもではありませんが。)
最近だと、この方法でカニカマをうまく食べさせて、気に入らせることに成功しました。
食べることで嬉しい気分にさせる
食べ物を好きになるメカニズムとして、「食べたとき、またはその後で気分が良くなるとその食べ物を好むようになる味覚嗜好(しこう)学習」を紹介しました。
この仕組みを応用すれば、嫌いな食べ物を好きにさせることができます。
この「味覚嗜好(しこう)学習」の仕組みにはドーパミンという神経伝達物質(脳内の神経細胞同士で信号をやり取りするときに用いる物質)が関連しています。
このドーパミンは脳内で「もっと食べたい」という欲求を起こさせる働きをします。
この働きは、たとえ口にした食べ物をおいしくないと感じたとしても、それによって良い気分になれば脳内でドーパミンが出て、その食べ物を「もっと欲しい」と思うようになるということです。
つまり、嫌いな食べ物を好きにさせるには、食べたときにドーパミンが出るように、またはすでに出ている状態で食べさせると良いのです。
例えば、嫌いなものを子どもに食べさせるときに、怖い顔をして脅しながら食べさせるよりも、楽しい雰囲気で子どもを笑わせながら食べさせることで(徐々にですが)子どもの嫌う気持ちを改善できます。
また、テーマパークなどへ行って、子どもが楽しい、嬉しいと喜んでいるときに嫌いなものを食べさせれば、それまで嫌いだったものでも好きになることが考えられます。
なんだか、恋愛でいう吊り橋効果みたいな感じですね。
(男女二人で吊り橋を渡る時、吊り橋の揺れによってドキドキするのを相手への好意だと勘違いするという心理効果です。)
もちろん、嫌いな食べ物を一口でも食べた後には、子どもが喜ぶような言葉をかけることもお忘れなく。
とにかく、食べたときに、子どもにハッピーな気分になってもらうことが大事です。
また、同じ「味覚嗜好(しこう)学習」を利用した例としては、子どものお腹の調子が悪いときに、すりおろしたリンゴを与えて下痢を改善してあげるなどすれば、子どもは(本人がそのように自覚できなくても)本能的に「りんごを食べたことによって、身体の調子がよくなった。だから、りんごをもっと食べよう」という風に、りんごを好むようになる可能性が高いです。
もし、すでにリンゴが好きなお子さんの場合なら、すりおろしたリンゴと一緒に嫌いな食べ物(例えばニンジンとか、小松菜とか)を少しだけ混ぜれば、一緒に好きになってくれるかも知れません。
子ども「おいしいと感じさせるためには、タンパク質の不足に注意
身体の中に不足している栄養素があると食べ物の味を正しく感じることができない場合があります。
特に、身体の中のタンパク質が足りていない状態では、「うま味成分」をおいしいと感じることができなくなります。
一般的に、人間を含む動物はみな、成長に伴ってタンパク質を求める量が少なくなっていきます。
つまり、大人はもう成長しきっているので、身体はタンパク質を多くは求めませんが、子どもは成長の途中ですので、身体がより多くのタンパク質を求めるということです。
このとき、タンパク質が足りていない場合は塩味を好みやすく、「身体に取り込んだタンパク質(摂取量)」が「身体が欲しがっているタンパク質の量(要求量)」を超えたときに初めてうま味成分をおいしいと感じることができるそうです。
つまり、タンパク質が足りていない場合は「うま味」を感じることができないので、同じ塩分量だと味が薄く感じられるのです。
若い人が塩気の多いものを好みやすく、大人になると味覚が変わるのは、このためだと考えられます。
このことから、子どもが「うま味成分が多い食べ物(例えば、海苔やしめじ、トマトなど)」を嫌って、塩気のあるものばかり好む場合、タンパク質が足りていない可能性があります。
※その他のうま味が多い食材については、こちらのサイトをご参照ください→ 食材別うま味情報丨特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
そんなときは、まずは子どもに十分なタンパク質を摂らせることが優先です。
十分なタンパク質を摂らせることによって、うま味成分が多い食べ物を「おいしい」と感じるようになるだけでなく、「うま味」という味も感じることができるようになるので、これまでよりも塩分控えめの味付けで十分おいしいと思えるようになります。
また、タンパク質が足りていないと、食欲が落ちることも報告されています。
タンパク質はアミノ酸と呼ばれる栄養素がつながってできたものですが、そのアミノ酸には種類があり、わたしたちが身体の中で作ることができないものを必須アミノ酸と呼びます。
この必須アミノ酸のなかで「トリプトファン」と「リジン」を、それぞれネズミに一切与えないという実験をしたところ、ネズミの食欲が落ち、エサを食べる量が普通のネズミの半分ほどまで減るということが報告されました。
このネズミの食欲の減りや成長の遅さは、トリプトファンやリジンをそれぞれ溶かした水を飲ませることによって、普通のネズミと同じまでに回復したそうです。
つまり、いつも食べる量が少ない子どもはタンパク質を積極的に摂らせれば、食べる量が増えるかもしれません。
先ほどご紹介した、ネズミにトリプトファンやリジンなどの必須アミノ酸を与えないという実験について、もう一つ面白いことが報告されています。
それは、リジン自体は苦いので、それが溶けた水は苦いにもかかわらず、リジンが足りていない(欠乏)状態にされたネズミは普通の水よりもリジンが溶けた水の方を好んで飲むようになる点です。
これは、身体の中でリジンが不足することによって起こる不快な症状が、リジンが溶けた水を飲むことによって改善されたため、先に紹介した「味覚嗜好(しこう)学習(食べることによって、体調が良くなると、その食べ物を好きになる本能的な仕組み)」によって、リジンが溶けた水を好むようになったためです。
また、このリジン不足のネズミは、リジンが溶けた水を飲むことでリジン不足が解消された後は、うま味成分である「アルギニン」や「グルタミン酸」が溶けた水も好むようになりました。
これは、先ほど「タンパク質が足りないと、うま味を感じることができない」ということをご紹介したように、ネズミの身体の中のリジン不足が解消されたことによって初めて、そのネズミがうま味を感じるようになったためです。
このように、タンパク質とくに必須アミノ酸が不足することは、人間を含む動物にとって、食欲をなくし、食べ物を食べてもその美味しさ(うま味)をきちんと感じることができなくなるため、重大な問題といえるでしょう。
では、実験的に必須アミノ酸を不足させた場合と違って、わたしたちの実際の食生活において必須アミノ酸が不足するようなことは本当に起こるのでしょうか?
答えは、起こります。
例えば、小麦はお米と同じくタンパク質をあまり含んでいませんが、お米に比べて必須アミノ酸であるリジン、メチオニン、スレオニンの量がかなり少ないです。
ですので、お米ではなくパンや麺類をよく食べている人の場合、お肉などをきちんと食べないと必須アミノ酸不足になりやすいです。
一方で、お米をよく食べる人は、お米は小麦よりも必須アミノ酸のバランスがよく、さらに必須アミノ酸を多く含んでいる大豆製品(味噌や納豆、豆腐など)と一緒に食べやすいため、特にお肉を食べなくてもタンパク質の栄養面では心配はありません。
もし、お子さんがお米を食べずにパンや麺類ばかり食べているなら、野菜を食べさせる前に、しっかりとお肉類や大豆類を食べさせる必要があります。
そうすることで、正しく食べ物の味を感じられるようになり、それまで嫌っていた食べ物も美味しく感じられるようになるかも知れません。
ちなみに、必須アミノ酸を多く含む食品をこちらのサイト(必須アミノ酸と非必須アミノ酸|オーソモレキュラー栄養医学研究所)で紹介されています。
お子さんの必須アミノ酸不足が気になる方は、チェックしてみてください。
キライなものを食べても身体は栄養を吸収しにくい
最後に、子どもに嫌いな食べ物を無理やり食べさせても、栄養として吸収されにくいという事実をお伝えします。
通常、美味しいもの(好きなもの)を食べたときは、身体の中で消化器系(胃や腸、肝臓、すい臓など)がよく働き、食べ物を溶かす消化液がたくさん分泌(ぶんぴつ)されることが知られています。
一方、実験でイヌに「栄養はあるが、味のないエサ」を食べさせると消化液の分泌(ぶんぴつ)がかなり減り、さらに「栄養もなく、味もないエサ」を食べさせた場合は、消化液が分泌されないことが報告されています。
つまり、同じ栄養を同じ量ふくんでいる食べ物だとしても、甘味やうま味がある食べ物を食べた方が、苦味や酸味のある食べ物を食べるよりも、より効率的に栄養を吸収できるということです。
また、子どもの栄養面が心配だからと言って、嫌がる子供に嫌いな食べ物を無理やり食べさせたところであまり吸収されないのです。
それなら、たとえ含まれている量が少しくらい減っていようと、同じ栄養が含まれている別の食べ物を子どもに食べさせる方が、より吸収しやすいということです。
また、食材そのものを変えずとも、野菜などは調理の仕方で味や食感などがかなり変わります。
例えば、野菜を「細かく刻んでから茹でる場合」と「大きめに切って茹でた後、細かく刻んだ場合」では、おいしさと見た目の良さ、食べやすさともに「細かく刻んでから茹でた野菜」の方が好まれたという研究報告があります。
この研究では、「細かく刻んでから茹でた野菜」は野菜の種類によって程度に差があるものの、「大きめに切って茹でた後、細かく刻んだ野菜」よりも、さまざまな栄養素が減っていることも報告されています。
しかし、より美味しく感じながら食べた方が消化・吸収が良いことから、調理方法の違いによって栄養素が多少減ってしまうとしても、結果的には子どもの身体にとっては「美味しく食べること」が一番良いことだと言えます。
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まとめ―子どもの好き嫌いをなおすには「楽しい食事」と「タンパク質をたくさん摂ること」が大切
では、これまでのお話をまとめます。
- 子どもの好き嫌いがひどくて、悩んでいる。
- 子どもに、嫌いなものでも食べるようになって欲しい。
- 子どもに、もっとたくさん食べるようになって欲しい。
というふうに、お子さんの好き嫌いで悩まれている親御さんは、お子さんの好き嫌いをなおすために、ぜひとも次の4つの方法を試してみてください。
- 子どもがその食べ物を好きになりやすいような調理方法や味付けをする(栄養面よりも子どもに気に入られることを優先してください)。
- 気長に、何度でも嫌いな食べ物を食卓にのせる。
- ドーパミンが出るように、子どもをハッピーな気分にさせながら嫌いなものを食べさせる。
- 子どものタンパク質(必須アミノ酸)不足が心配な場合は、正しく食べ物の美味しさを感じられていない可能性があるので、それを改善させる。
また、そもそも子どもに嫌いな食べ物をできるだけつくらせないようにするには、
- 子どもの食事が終わった後はすぐに寝転ばせたり、走らせたり、ジャンプさせたり、ぐるぐる回転させたりせず、できるだけ気分が悪くなるようなことは避けさせる。
- 子どもが風邪を引いている、あるいは寝不足ぎみなどで体調が万全でないときは新しい食べ物や苦手な食べ物を食べさせるのは控える。
- 子どもに嫌いな食べ物を食べさせるために叱ったり、おどしたりしてはいけません。逆効果で、ますます嫌いになります。
さらに、忘れてはいけないのは、苦味を感じにくい、または全く苦味を感じない子どもが遺伝的にいるということです。
保育園や幼稚園の給食などで、Aちゃんは残さず全部食べたけど、Bくんはピーマンを残したという場合、単純にAちゃんは「がまんができる(よくしつけられた)エライ子」で Bくんが「がまんができない(しつけがちゃんとされていない)ダメな子というわけではなく、生まれ持った遺伝的な差である可能性があるのです。
以上を踏まえて、より効果的に、お子さんの好き嫌いをなおすのに取り組まれるのが良いと思います。
私も、息子の偏食と少食を改善するために、まずはタンパク質をたくさん取らせることから始めていきたいと思います。
※2019年11月現在:わが家では好き嫌い対策として「みそ汁ごはん」が万能だという結論に達しました。↓
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参考文献
・野菜類のきざみ食調製法の違いが栄養成分と嗜好性に及ぼす影響について
・ニホンザルにおけるPTC苦味非感受性個体の発見とその適応的意義の解明